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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

あまりと申せば敵を知らなすぎる。また君命のおもさをかろんじ過ぎようがの。――父の正成が湊川へ行くにあたって、先帝に御諫言をして行ったのとはわけがちがう。――いまにして思えば正成には大処から全局を観る大きな眼があったのだ。しかも君命なればとそれも抛ち、あのいさぎよい一期を完全に戦い終った」

「…………」

「その正成の子ではないか、どうしたものだ、正行は」

「…………」

正行は、しきりに肱を顔にあてていた。いつかふるえ泣いていたのである。親房の峻烈なことばの鞭もそれに気づくと一たんは口をつぐんでしまった。が、なおまだ足らぬようにさいごの激励を彼の唇がふくみかけたときである。地に伏していた正行は、すっくと体をのばして立ち上がっていた。

「早々に駈けもどって軍の手当てをいそぎまする。いちいちのおことばは肺腑を刺し、これ以上の辱には座にも耐えられません。これにて、おいとまを」

わざとおちついて、親房への一礼はていねいにしたつもりであった。が、正行の姿は一転、駈けるような速さで門のそとへ出て行った。親房はまたそれを、自分の言が充分な功を奏したものとして見送っていた。