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あきのまぼろし

秋の幻

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《秋の幻(あきのまぼろし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,242 字 · 9 頁

青空文庫

稲の穂は実のりのいい黄色い重さに、田の上を一面に波打っていた。重く倒れかけた蕎麦畑の間からは、雲雀が空に舞い上った。大根や里芋も黒い土の中にむくむくと根を張っているらしかった。そして村の人々は皆田畑に出た。収穫の喜びが彼等の日に焼けた顔の上に在った。そして雨に封じられていた彼等の筋肉の力は、今や大地の上に試みられていた。

そういう中から、またぽつりぽつりと巡礼の旅に出かける人達もあった。彼等の前には広い野があった。野の上には一面に紅葉した草木があり、祈らるるような清く澄んだ大気があった。朝には路傍の草葉に露が結び、夕には西の空が赤く焼けた。

雨に封じられていた心が雨と共に霽れると、凡ての人の前には急に深い秋が現われていた。収穫の秋が、そして祈祷の秋が、また少数の人にとっては瞑想の秋が。何時の間にか深くなった秋を驚いて見つめた地上の人々は、四五日の好晴の後には、もう自ら深い秋のうちに浸っていた。そして各の途を歩いた。それは自分の所有を取収むる季節であった。自分の祈祷を祈り、自分の心を黙想する季節であった。空が高く澄み切って、紅葉した木の葉が静に散った。