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あるゆうかくでのできごと
空にむかひて
若杉 鳥子
線上閱讀若杉 鳥子《空にむかひて(あるゆうかくでのできごと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,677 字 · 46 頁
身には少年の着物のようにゆきたけの短い紺絣の筒袖を着ている。
その背後から刑事と二人で下りて来たのは、買われた娼妓の九重だった。
蒼ざめた、然し思い詰めた表情をして、彼女は階段の下に立っていた。
客と刑事とは二三何か問答をして、腰縄を客に打って、一同は店の土間へ降りようとした。降りかけて客は九重の方を顧み、眼で刑事に哀願してから、また九重の傍に戻って来た。男は九重の首を抱き込むようにして、彼女の耳に何事をかささやいた。
彼女は身を縮めて、耳を掩うように手を当て眼を閉じていた。
男は前科五犯という強竊盗でこの近郊の産であった。近頃何かの罪で、県下の各警察が捜していた犯人なので、その九重に別れる際いい置いた事は、
『おまえに預けた短刀の事は、決して口外してはならぬぞ、もし口外してくれる時は、必ず出獄後に返礼をする』
そんな意味の事だったが、彼女はすぐにそれを立派に口外してしまったばかりか、短刀は警察の手へ渡して、ほっと息をついた。
然しその男の出獄まで、幸いにも彼女は年期が開けて足を洗う事ができたからよかった。
それからその遊郭に二三年の月日が流れた。