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ぬすむおんな

窃む女

黒島 伝治

線上閱讀黒島 伝治《窃む女(ぬすむおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,734 字 · 18 頁

青空文庫

眼は真直に前をみつめて、左右のことには気づかない調子になる。

「もう這入って来そうな時分だ。」

妻が座敷へ上って来るのがおそいので彼は訝った。

下駄の音は、門をはいってから、忍び足をしているのか、低くなっていた。彼がじいっと耳を澄ますと、納屋で蓆や空俵を置き換えている気配がした。まもなく、お里が喉頭に溜った痰を切るために「ウン」と云って、それから、小便をしているのが聞えて来た。

「隠したな。」と清吉は心で呟いた。

妻は、やはり反物をかえさずに持って帰って、納屋の蓆か空俵の下に隠したんだな、と彼は思った。

心臓の鼓動が激しくなった場合に妻の喉頭に痰が溜って、それを切ろうとして「ウン、ウン!」というのも彼はよく知っていた。

彼は、もう妻の身振りも、顔色も、眼も見る必要がないと思った。すべてが分ったような気がした。が、それを彼女に知らせず、何気ない風をよそうていようとした。そして、彼女の仕出かしたことに対してはなるだけ無関心でいようとした。けれども彼の神経は、知らず/\、妻の一挙一動に引きつけられた。お里は小便をすますと、また納屋へ行って、こそ/\していた。