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りゅう

竜

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《竜(りゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,397 字 · 19 頁

青空文庫

それを見た恵印の情けなさは、大概前からの行きがかりでも、御推察が参るでございましょう。が、ここに妙な事が起ったと申しますのは、どう云うものか、恵印の心にもほんとうに竜が昇りそうな――それも始はどちらかと申すと、昇らない事もなさそうな気がし出した事でございます。恵印は元よりあの高札を打った当人でございますから、そんな莫迦げた気のすることはありそうもないものでございますが、目の下で寄せつ返しつしている烏帽子の波を見て居りますと、どうもそんな大変が起りそうな気が致してなりません。これは見物の人数の心もちがいつとなく鼻蔵にも乗り移ったのでございましょうか。それともあの建札を建てたばかりに、こんな騒ぎが始まったと思うと、何となく気が咎めるので、知らず知らずほんとうに竜が昇ってくれれば好いと念じ出したのでございましょうか。その辺の事情はともかくも、あの高札の文句を書いたものは自分だと重々承知しながら、それでも恵印は次第次第に情けない気もちが薄くなって、自分も叔母の尼と同じように飽かず池の面を眺め始めました。また成程そう云う気が起りでも致しませんでしたら、昇る気づかいのない竜を待って、いかに不承不承とは申すものの、南大門の下に小一日も立って居る訳には参りますまい。