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けいば

競馬

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《競馬(けいば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,134 字 · 24 頁

青空文庫

といって、ほかの者ではその作家の顔は判らない。私情で雑誌の発行を遅らせては済まないと、寺田はやはり律義者らしくいやいや競馬場へ出掛けた。ちょうど一競走終ったところらしく、スタンドからぞろぞろと引き揚げて来る群衆の顔を、この中に一代の男がいるはずだとカッと睨みつけていると、やあ済まん済まんと作家が寄って来て、君を探していたんだよ。どうやら朝からスリ続けて、寺田が持って来る原稿料を当てにしていたらしかった。渡して原稿を貰い、帰ろうとしたが、僕も今日は京都へ廻るから終るまでつき合わないかと引き停められると、寺田はもう気が弱かった。スタンドに並んで作家の口から、君アンナ・カレーニナの競馬の場面読んだ? しかしあれでもないよ、どうも競馬を本当に描写した文学はないね、競馬は女より面白いのにね、僕は競馬場へ女を連れて来る奴の気が知れんのだ、競馬があれば僕はもう女はいらんね、その証拠に僕はいまだに独身だからね、西鶴の五人女に「乗り掛ったる馬」という言葉があるが、僕はこんなスリルを捨てて女に乗り掛ろうとは思わんよ……という話を聴きながら競走を見ている間、寺田はふと競馬への反感を忘れていた。