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かんざしをさしたへび
簪を挿した蛇
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《簪を挿した蛇(かんざしをさしたへび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,681 字 · 20 頁
中腹の小高いところに、ちょっと平らな場所があって、其処には下屋敷があったということになっていた。其処までは一、二度行ったことがあるが、鬱蒼と茂った暗い森の中に、細い径がたえだえについていたような気がする。そしてその場所に著くと、急に平らな如何にも屋敷趾らしい開けた土地があった。開けたといっても、それは亡霊の住む土地である。やっと木の間から盗み見るくらいで、匆々に逃げ帰って来るのが普通であった。今から考えてみれば、せいぜい二十分くらいの行程のところであったように思われる。しかし子供たちにとっては、その探険には非常な勇気が必要であった。
子供たちはもちろん和服で、みな木綿の袴をはいていた。私の父は当時のハイカラであったらしく、いつか洋服を一著作ってくれたことがあったが、そんなものを著て外を歩くことなどはとても出来なかった。雨の多い土地であったが、傘を持って来るのは極く少数で、大抵は茣蓙帽子という茣蓙で作った一種のマントを頭からかぶって学校へ通った。雨風の強い日などは、茣蓙を通した雨でびしょ濡れになって学校へ著いた。そしてずらりと並んだ下駄箱に下駄を納め、藁草履にはきかえて、溜りに集った。