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むらさきのびん

紫の壜

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《紫の壜(むらさきのびん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 頁

青空文庫

彼女との結婚を空想していたのだ。彼女と結婚して、そして私は、あの酒場を盛大に繁昌さしてやろうと考えた。そうなれば、母の生活も安泰だし、妹の嫁入りも気易く出来よう。小樽の伯父とも連絡して、海産物加工品の取引きも初めよう。

私は年内に、弓子の決定的な言葉を得たいと思った。更に空想の中では、彼女から結婚の話が出るだろうと胸をとどろかしていた。そして私は彼女に夢中になっていった。

そこへ突然、あの情景が展開されたのだ。彼女にとっては、苦悩の爆発みたいなものだった。私にとっては、雷撃にも似ていた。――私は今、それを語ることは、苦痛を超えた喜びでさえある。

商売のことで、ちょっと飲み、酔ってくると、弓子に逢いたくなった。少し遅かったが、行ってみた。

店は真暗だが、奥の室に光りがあった。私は声をかけて、煙草を吸いはじめた。ずいぶん暫くして、ぱっと電灯がつき、弓子が出てきた。今日は休みで、戸締りをしておいた筈だが、と言う。私は帰りかけた。

「飲みたいんでしょう。おあがんなさい。今日は休みだから、わたしがおごるわ。」

最初来た時から二度目に、私は彼女の室に通った。

食卓にウイスキーの瓶やピーナツが出ていた。