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むらさきのびん

紫の壜

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《紫の壜(むらさきのびん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 頁

青空文庫

知っているというのが悪るければ、世間ずれがしているのだ。――なにか悲しさに似たものが胸に来て、私は彼女の手を、いつものように握りしめようとした。

彼女は手を引っこめた。

「昔は、よく、手を握り合ったわね。だけど、もうそんなこと……ばかばかしい。」

「そんなら……。」

私は身を乗りだして、彼女の唇を吸おうとした。彼女はそれをよけて、コップを手に取った。

「脅迫するなら、打つわよ。」

「脅迫なんて……。」

「脅迫というものよ。男って、みんなそうよ。」

コップの酒をぐいぐいあおって、そして、へんにぎらぎらする眼を私にじっと注いだ。――彼女は豊かな感じのする顔立ではなく、頬の肉付がへんに薄かったが、耳の恰好がよくて可愛かった。その耳を、わざと蔽い隠すような風に、髪をふっくらと取りあげている。私は彼女の眼を避けて、黒髪の中のその耳を求めたが、こちらに斜めに向いてる耳は、下の方が引きつり、その引きつりが、頸筋の大きな褐色の痣へ続いている。罹災の時の火傷の痕だ。私は眼を伏せ、コップの酒をなめ、食卓に屈みこむように両肱をついて、掌に額をもたせた。

「富永さんとこでもそうだった。