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のうのなかのれいじん

脳の中の麗人

海野 十三

線上閱讀海野 十三《脳の中の麗人(のうのなかのれいじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 頁

青空文庫

女は主人公が部屋の錠をあけたときに、声をかけた。そして無理やりに泊っていったという。これでみると、Yという女は、気の毒にも主人公から冷淡にあつかわれている。Yという女の姿が見えるようで、たいへんいじらしくなった。

それでいて、この日記の主人公なる者が、一体誰なんだか分らないのだった。

その主人公こそは、彼――宮川宇多郎なのであろうか。

「いや、断じて、自分ではない。自分には、そんな記憶がない」

記憶がないから、自分ではないと思ったものの、この手帖は自分の机のひきだしの中に入っていたことといい、その日記の筆蹟が、たしかに自分のものであることといい、じつに気持のわるいことに覚えた。一体、どうしたというのだろう。

彼は、さらにその手帖の頁をくって、先を読んだ。

「五月××日。Y、夕方暗くなって、かえってゆく。もうこれでお別れだという。もう諦めたともいう。どうかあやしいものだ。いつもその手をつかう。かえったあとで、座蒲団を片づけると、下から私の写真がでてきた。その写真は、ずたずたにひき裂いてあった。さっき私の写真を一枚くれと熱心に頼んだものだから、つい与えたのだが、Yのやつ、持ってゆかないで、こんなひどいことをしやがった」