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くさまくら

草枕

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《草枕(くさまくら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 84,485 字 · 170 頁

青空文庫

御倉さんはもう赤い手絡の時代さえ通り越して、だいぶんと世帯じみた顔を、帳場へ曝してるだろう。聟とは折合がいいか知らん。燕は年々帰って来て、泥を啣んだ嘴を、いそがしげに働かしているか知らん。燕と酒の香とはどうしても想像から切り離せない。

三本の松はいまだに好い恰好で残っているかしらん。鉄灯籠はもう壊れたに相違ない。春の草は、昔し、しゃがんだ人を覚えているだろうか。その時ですら、口もきかずに過ぎたものを、今に見知ろうはずがない。御倉さんの旅の衣は鈴懸のと云う、日ごとの声もよも聞き覚えがあるとは云うまい。

三味の音が思わぬパノラマを余の眼前に展開するにつけ、余は床しい過去の面のあたりに立って、二十年の昔に住む、頑是なき小僧と、成り済ましたとき、突然風呂場の戸がさらりと開いた。

誰か来たなと、身を浮かしたまま、視線だけを入口に注ぐ。湯槽の縁の最も入口から、隔たりたるに頭を乗せているから、槽に下る段々は、間二丈を隔てて斜めに余が眼に入る。しかし見上げたる余の瞳にはまだ何物も映らぬ。しばらくは軒を遶る雨垂の音のみが聞える。三味線はいつの間にかやんでいた。

やがて階段の上に何物かあらわれた。