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かつしかみやげ

荷風随筆集(上)

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《荷風随筆集(上)(かつしかみやげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 頁

青空文庫

」と横に書いた灯が出してある。

わたくしは人に道をきく煩いもなく、構内の水溜りをまたぎまたぎ灯の下をくぐると、家と亜鉛の羽目とに挟まれた三尺幅くらいの路地で、右手はすぐ行止りであるが、左手の方に行くこと十歩ならずして、幅一、二間もあろうかと思われる溝にかけた橋の上に出た。

橋向うの左側に「おでんかん酒、あづまや」とした赤行燈を出し、葭簀で囲いをした居酒屋から、※を焼く匂いがしている。溝際には塀とも目かくしともつかぬ板と葭簀とが立ててあって、青木や柾木のような植木の鉢が数知れず置並べてある。

ここまでは、一人も人に逢わなかったが、板塀の彼方に奉納の幟が立っているのを見て、其方へ行きかけると、路地は忽ち四方に分れていて、背広に中折を冠った男や、金ボタンの制服をきた若い男の姿が、途絶えがちながら、あちこちに動いているのを見た。思ったより混雑していないのは、まだ夜になって間もない故であるのかも知れない。

足の向く方へ、また十歩ばかりも歩いて、路地の分れる角へ来ると、また「ぬけられます。」という灯が見えるが、さて其処まで行って、今歩いて来た後方を顧ると、何処も彼処も一様の家造りと、一様の路地なので、自分の歩いた道は、どの路地であったのか、もう見分けがつかなくなる。