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しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《荷風随筆集(下)〔全2冊〕(しょうたく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,633 字 · 74 頁
十六、七のころ
十六、七のころ、わたくしは病のために一時学業を廃したことがあった。もしこの事がなかったなら、わたくしは今日のように、老に至るまで閑文字を弄ぶが如き遊惰の身とはならず、一家の主人ともなり親ともなって、人間並の一生涯を送ることができたのかも知れない。
わたくしが十六の年の暮、といえば、丁度日清戦役の最中である。流行感冒に罹ってあくる年の正月一ぱい一番町の家の一間に寝ていた。その時雑誌『太陽』の第一号をよんだ。誌上に誰やらの作った明治小説史と、紅葉山人の短篇小説『取舵』などの掲載せられていた事を記憶している。
二月になって、もとのように神田の或中学校へ通ったが、一週間たたぬ中またわるくなって、今度は三月の末まで起きられなかった。博文館が帝国文庫という総称の下に江戸時代の稗史小説の復刻をなし始めたのはその頃からであろう。わたくしは病床で『真書太閤記』を通読し、つづいて『水滸伝』、『西遊記』、『演義三国志』のような浩澣な冊子をよんだことを記憶している。病中でも少年の時よんだものは生涯忘れずにいるものらしい。中年以後、わたくしは、機会があったら昔に読んだものをもう一度よみ返して見ようと思いながら、今日までまだ一度もそういう機会に出遇わない。