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しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《荷風随筆集(下)〔全2冊〕(しょうたく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,633 字 · 74 頁
十日の菊
一
二
一
庭の山茶花も散りかけた頃である。震災後家を挙げて阪地に去られた小山内君がぷらとん社の主人を伴い、倶に上京してわたしの家を訪われた。両君の来意は近年徒に拙を養うにのみ力めているわたしを激励して、小説に筆を執らしめんとするにあったらしい。
わたしは古机のひきだしに久しく二、三の草稿を蔵していた。しかしいずれも凡作見るに堪えざる事を知って、稿半にして筆を投じた反古に過ぎない。この反古を取出して今更漉返しの草稿をつくるはわたしの甚忍びない所である。さりとて旧友の好意を無にするは更に一層忍びがたしとする所である。
窮余の一策は辛うじて案じ出された。わたしは何故久しく筐底の旧稿に筆をつぐ事ができなかったかを縷陳して、纔に一時の責を塞ぐこととした。題して『十日の菊』となしたのは、災後重陽を過ぎて旧友の来訪に接した喜びを寓するものと解せられたならば幸である。自ら未成の旧稿について饒舌する事の甚しく時流に後れたるが故となすも、また何の妨があろう。
二
まだ築地本願寺側の僑居にあった時、わたしは大に奮励して長篇の小説に筆をつけたことがあった。その題も『黄昏』と命じて、発端およそ百枚ばかり書いたのであるが、それぎり筆を投じて草稿を机の抽斗に突き込んでしまった。