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しょうたく

荷風随筆集(下)〔全2冊〕

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《荷風随筆集(下)〔全2冊〕(しょうたく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,633 字 · 74 頁

青空文庫

表口では下足番の男がその前から通りがかりの人を見て、入らっしゃい、入らっしゃいと、腹の中から押出すような太い声を出して呼びかけている。わたくしは帳場から火種を貰って来て、楽屋と高座の火鉢に炭火をおこして、出勤する芸人の一人一人楽屋入するのを待つのであった。

下谷から深川までの間に、その頃乗るものといっては、柳原を通う赤馬車と、大川筋の一銭蒸汽があったばかり。正月は一年中で日の最も短い寒の中の事で、両国から船に乗り新大橋で上り、六間堀の横町へ来かかる頃には、立迷う夕靄に水辺の町はわけても日の暮れやすく、道端の小家には灯がつき、路地の中からは干物の匂が湧き出で、木橋をわたる人の下駄の音が、場末の町のさびしさを伝えている。

忘れもしない、その夜の大雪は、既にその日の夕方、両国の桟橋で一銭蒸汽を待っていた時、ぷいと横面を吹く川風に、灰のような細い霰がまじっていたくらいで、順番に楽屋入をする芸人たちの帽子や外套には、宵の口から白いものがついていた。九時半に打出し、車でかえる師匠を見送り、表通へ出た時には、あたりはもう真白で、人ッ子ひとり通りはしない。

太皷を叩く前座の坊主とは帰り道がちがうので、わたくしは毎夜下座の三味線をひく十六、七の娘――名は忘れてしまったが、立花家橘之助の弟子で、家は佐竹ッ原だという――いつも