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らくらいのあと

落雷のあと

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《落雷のあと(らくらいのあと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,072 字 · 14 頁

青空文庫

その姿を、翌朝、青空のもと、晴れやかな陽光のなかに、立川一郎は仰ぎ見ました。

彼は瞑想に耽りながら、焼け跡を逍遥し、もはや人込みが少くなった頃、電車に乗り、正午近くなって会社へ出ました。そしてそのまま自席に就き、ぼんやり考えこんでいますと、専務の水町周造から呼びつけられました。

「君は、この会社の規律を、忘れたのではあるまいね。」

一語一語に力をこめて、水町はじっと立川を眺めました。その視線が、以前は金槌のようだったのに今では木槌のようだと、立川はへんなことを感じました。

会社の規律というのは、立川も鵜呑みにしていました。遅刻したり、外出したり、早退したりする場合、つまり勤務時間に在社しない場合、その理由を一々専務に報告して了解を得なければならない、そういうことでした。戦時中に厳守されてきたその規律は、終戦後、会社の事務が殆んど無くなった後まで、やはり残存していました。

「何を考えてるんだ。」

水町は相手の注意を促す時の癖で、卓上をこつこつと叩きました。

立川は眼を挙げました。そしてうっかり、社長矢野さんの家の欅に雷が落ちたことを言いだそうとして、唾をのみこみましたが、思い返して、また眼を伏せました。