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とうそんのぶんがくにうつるしぜん
藤村の文学にうつる自然
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《藤村の文学にうつる自然(とうそんのぶんがくにうつるしぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,118 字 · 12 頁
現代の日本の作家の中で、その作品に最も多く自然をうけ入れ、示しているのは誰であろう。島崎藤村をその一人としてあげ得ると思う。
藤村は、明治五年、長野県の馬籠で生れた。家は馬籠の旧本陣で、そこの大規模な家の構え、召使いなどの有様は、「生い立ちの記」の中にこまかく描かれている。父というひとは、「それは厳格で」「家族のものに対しては絶対の主権者で、私達に対しては又、熱心な教育者で」あった。髪なども長くして、それを紫の紐で束ねて後へ下げ、古い枝ぶりの好い松の樹が見える部屋で、幼い藤村に「大学」や「論語」の素読を教えた。その父の案で、藤村は僅か九歳のとき、兄と一緒に東京の姉の家へ、勉強によこされたのであった。
そのときから、二十二三歳になった藤村が詩をつくるようになって、文学的生涯に入るようになるとともに思想的な動揺から数年間に亙る放浪の旅へ出るまで、少年藤村の毎日は明治十三年から二十七年時代の東京で銀座裏や大川端や高輪辺に過された。しかも、これらは、いずれも馬籠の父の家と親類にあたる家か、さもなければ先輩・知人の家で、少年藤村は謂わば寄寓の身の上であった。