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らんがくことはじめ

蘭学事始

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《蘭学事始(らんがくことはじめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,575 字 · 31 頁

青空文庫

八

が、良沢の志は遠大だった。彼の志は蘭学の大成にあった。ターヘルアナトミアのごときは、ほとんど眼中になかった。彼は、オランダのことごとくに通達し、彼の国の書籍何にても読破したい大望を懐いていた。

最初、一、二年は、良沢と玄白との間に、なんら意見の扞格もなかった。が、彼らの力が進むに従って、二人はいつも同じような口争いを続けていた。

「このところの文意はよく分かり申した。いざ先へ進もうではござらぬか」

玄白は、常に先を急いでいた。が、良沢は、悠揚として落着いていた。

「いや、お待ちなされい。文意は通じても、語義が通じ申さぬ。およそ、語義が通じ申さないで、文意のみが通ずるは、当推量と申すものでござる」

良沢は、頑として動かなかった。

八

四年の月日は過ぎた。

玄白は、ターヘルアナトミアの稿を更えること十二回に及んだ。が、篇中、未解の場所五カ所、難解の場所十七カ所があった。玄白は、ひたすらに上梓を急いだ。が、良沢は、未解難解の場所を解するまではとて、上梓を肯んじなかった。

良沢と玄白とは、それについて幾度も論じ合った。が、二人はいくら論じ合っても、一致点を見出さなかった。