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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《血曼陀羅紙帳武士(ちまんだらしちょうぶし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 頁

青空文庫

「出たーッ」

と、五郎蔵は、自分が襲われたかのように叫んだ。

左門は紙帳を背後にし、頬の削けた蒼白い顔を、漲る春の真昼陽に晒らして立ち、少しまぶしそうに眼をしばたたいた。

「出た! 本当に出た! 左門が!」

立ち木に背をもたせ、五郎蔵とその乾児たちとを睨んでいた頼母も、紙帳を出た左門を認め、声に出して叫んだ。悪寒が身内を氷のように走った。

(絶体絶命! ……俺はここで討たれるのか!)

大勢の五郎蔵の乾児たちを相手に斬り合うだけでさえ、今は手に余っていた。そこへ、いよいよ、自分より段違いに腕の勝れた左門が現われ出たのであった。勝ち目はなかった。

(残念! 返り討ちに逢うのか! ……栞殿を眼の前に置きながら、返り討ちに!)

眩みかかった彼の眼の、その眼界を素走って、五郎蔵の乾児数人が、左門へ襲いかかって行くのが見えた。と、その乾児たちを無視したように、左門の豹のような眼が、頼母の方へ注がれたが、

「頼母氏!」

という声が聞こえて来た。

「紙帳の中の二人の女子――栞殿とお浦との純情に酬いるため、二人の希望を入れ、拙者、貴殿へ助太刀つかまつるぞ。……ただし、拙者と貴殿とは讐敵同士、恩に着るに及ばぬ、恩にも着せ申さぬ! ……五郎蔵!」