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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

線上閱讀海野 十三《西湖の屍人(せいこのしじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 頁

青空文庫

そのあとから、真夜中ながら弥次馬のおしよせてくる気配がした。私は弥次馬に追越されたくなかったので、驀地に駈けだした。今度は大丈夫走れるぞと思った。

その鼠のような怪青年は、目にとまらぬ速さで逃げまわった。街燈が黄色い光を斜になげかけている町角をヒョイと曲るたびに、

「ソレあすこだ!」

と、怪青年の黒影が、ぱッと目に入るだけだった。私達と弥次馬とは、ずっと間隔ができてしまった。そして、いつの間にか、丸の内寄りの、濠ちかくまで来ているのに気がついた。

「あッ、しめた。袋小路へ入ったぞ。彼奴が、ひっかえしてくるところを抑えるんだッ」

帆村の声に、私は最後の五分間的な力走をつづけた。果然その袋小路の入口へきた。

「待て!」

帆村は、その入口に忍びよると、倒れるように地に匍ってそッと下の方から、袋小路をのぞきこんだ。

三十秒、四十秒、五十秒、帆村は動かない。

三分も経ってから、帆村は塵を払って立ちあがった。彼は私の耳許で囁いた。

コートの襟を立て、巻煙草を口にくわえた酔漢が二人、腕を組みあって、ノッシ、ノッシと、袋小路に紛れこんだ――勿論、帆村と私とだった。

その袋小路は、ものの五十メートルとなかった。