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やくほんファウストについて

訳本ファウストについて

森 鴎外

線上閱讀森 鴎外《訳本ファウストについて(やくほんファウストについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,916 字 · 12 頁

青空文庫

しかし私は考えた。諺に大師は弘法に奪われたとか云うようなわけで、ファウストと云えばギョオテのファウストとなっているから、ことわるまでもないと考えた。そしてそのままにして置いた。

さて太田さんの事を言ったから、ついでに話してしまうが、太田さんは印行本の扉の枠とペエジの頭にある摸様とをかいて下すった。初めどんな物をかこうかと相談して下すったので、第一部はゴチック第二部はアンチックと云う風にして下さいと願った。アンチックは造做は無いが、ゴチックはなんにしようかと、太田さんは迷って、随分暇を潰してあれを捜して下すった。即ちミュンステルのドオムから取って下すったのである。太田さんのして下すった事はこればかりでは無い。訳本全部を一校して下すった。実に容易ならぬ骨折をして下すったのである。この事はどこでも公言して無いから、この機会を利用して公言して置く。

訳本に何物をも書き添えないと云うことは、ほとんど従来例の無い事かと思う。しかしこれには単に訳本をして自ら語らしめる、否訳文をして自ら語らしめると云う趣意ばかりで無く、別に理由がある。大抵訳本に添えて書くべき事は、原書の由来とか原作者の伝記とか云うもので、その外は飜訳の凡例のような物であろう。