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しゅみのいでん

趣味の遺伝

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《趣味の遺伝(しゅみのいでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 38,235 字 · 77 頁

青空文庫

第一余の理論の証明に関係してくる。先ずこれなら安心。御蔭様でと挨拶をして帰りかけると、老人はこんな妙な客は生れて始めてだとでも思ったものか、余を送り出して玄関に立ったまま、余が門を出て振り返るまで見送っていた。

これからの話は端折って簡略に述べる。余は前にも断わった通り文士ではない。文士ならこれからが大に腕前を見せるところだが、余は学問読書を専一にする身分だから、こんな小説めいた事を長々しくかいているひまがない。新橋で軍隊の歓迎を見て、その感慨から浩さんの事を追想して、それから寂光院の不思議な現象に逢ってその現象が学問上から考えて相当の説明がつくと云う道行きが読者の心に合点出来ればこの一篇の主意は済んだのである。実は書き出す時は、あまりの嬉しさに勢い込んで出来るだけ精密に叙述して来たが、慣れぬ事とて余計な叙述をしたり、不用な感想を挿入したり、読み返して見ると自分でもおかしいと思うくらい精しい。その代りここまで書いて来たらもういやになった。今までの筆法でこれから先を描写するとまた五六十枚もかかねばならん。追々学期試験も近づくし、それに例の遺伝説を研究しなくてはならんから、そんな筆を舞わす時日は無論ない。