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ろじょう

路上

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《路上(ろじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 43,539 字 · 87 頁

青空文庫

「じゃ僕は失敬しよう。いずれまた。」と、取ってつけたような挨拶をして、々石段を下りて行った。

四

二人に別れた俊助はふと、現在の下宿へ引き移った事がまだ大学の事務所まで届けてなかったのを思い出した。そこでまたさっきの金時計を出して見ると、約束の三時までにはかれこれ三十分足らずも時間があった。彼はちょいと事務所へ寄る事にして、両手を外套の隠しへ突っこみながら、法文科大学の古い赤煉瓦の建物の方へ、ゆっくりした歩調で歩き出した。

と、突然頭の上で、ごろごろと春の雷が鳴った。仰向いて見ると、空はいつの間にか灰汁桶を掻きまぜたような色になって、そこから湿っぽい南風が、幅の広い砂利道へ生暖く吹き下して来た。俊助は「雨かな」と呟きながら、それでも一向急ぐ気色はなく、書物を腋の下に挟んだまま、悠長な歩みを続けて行った。

が、そう呟くか呟かない内に、もう一度かすかに雷が鳴って、ぽつりと冷たい滴が頬に触れた。続いてまた一つ、今度は触るまでもなく、際どく角帽の庇を掠めて、糸よりも細い光を落した。と思うと追々に赤煉瓦の色が寒くなって、正門の前から続いている銀杏の並木の下まで来ると、もう高い並木の梢が一面に煙って見えるほど、しとしとと雨が降り出した。