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かとにん
過渡人
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《過渡人(かとにん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 頁
残酷とさえ云えないことはありません。勿論笹尾も罪を犯したには違いありませんが、もっと笹尾を救う道が外にありはしなかったでしょうか。少くとも笹尾の老母を救う道が。」
「それはあったかも知れない。」
「ではなぜそれをやられなかったのでしょう。」
「なぜだと!……ああそれは……。」こう云いかけて矢島さんは息をつめてじっと眼を据えた。
「俺が年とったからさ。」
秀男はその調子に喫驚して父を見た。矢島さんは眉根を寄せながら、がくりと首を垂れていた。
悲壮な感激が秀男の心に寄せて来た。それは古い礼拝堂の廃屋の中に立ちつくしたような荒廃な跪拝の心持ちであった。彼は立ち上って蒼空と大地との間に何かを模索するような眼差しを投げた。ふり返ると父はじっと眼を足下に落したまま堅く閉した雨戸を背にして月の光りを浴びて居る。
「もう行きましょうか。」
斯う云った秀男の声は妙に震えを帯びていた。
「ああゆこう。」
矢島さんは立ち上った。
月は西の空に傾いていた。植込の影が長く高地芝の上に横って静に移ってゆくようであった。
「お前はまだ若いから種々なことをやってみるがいい。」
矢島さんは突然こう云って秀男の方を見た。