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こうがいせいかつのいちねん
郊外生活の一年
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《郊外生活の一年(こうがいせいかつのいちねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,728 字 · 8 頁
庭のまき水を倹約する日もあった。折角の風呂も休まなければならないような日もあった。わたしも一日に一度ずつは井戸をのぞきに行った。夏ばかりでなく、冬でも少しく照りつづくと、ここらは水切れに脅かされるのであると、土地の人は話した。
蛙や蛍とおなじように、ここでは虫の声もあまり多く聞かれなかった。全然鳴かないというのではないが、思ったほどには鳴かなかった。麹町にいたときには、秋の初めになると機織虫などが無暗に飛び込んで来たものであるが、ここではその鳴く声さえも聴いたことはなかった。庭も広く、草も深いのに、秋の虫が多く聴かれないのは、わたしの心を寂しくさせた。虫が少いと共に、藪蚊も案外に少かった。わたしの家で蚊やりを焚いたのは、前後二月に過ぎなかったように記憶している。
秋になっては、コスモスと紫苑がわたしの庭を賑わした。夏の日ざかりに向日葵が軒を越えるほど高く大きく咲いたのも愉快であったが、紫苑が枝や葉をひろげて高く咲き誇ったのも私をよろこばせた。紫苑といえば、いかにも秋らしい弱々しい姿をのみ描かれているが、それが十分に生長して、五株六株あるいは十株も叢をなしているときは、かの向日葵などと一様に、寧ろ男性的の雄大な趣を示すものである。