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ななこ

野菊の墓

伊藤 左千夫

線上閱讀伊藤 左千夫《野菊の墓(ななこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,271 字 · 144 頁

青空文庫

裏の行きとまりに低い珊瑚樹の生垣、中ほどに形ばかりの枝折戸、枝折戸の外は三尺ばかりの流れに一枚板の小橋を渡して広い田圃を見晴らすのである。左右の隣家は椎森の中に萱屋根が見える。九時過ぎにはもう起きてるものも少なく、まことに静かに穏やかな夜だ、月は隣家の低い森の上に傾いて、倉も物置も庇から上にばかり月の光がさしている。倉の軒に迫って繁れる梅の樹も、上半の梢にばかり月の光を受けている。

おとよは今その倉の庇、梅の根もとに洗濯をしている。うっすら明るい梅の下に真白い顔の女が二つの白い手を動かしつつ、ぽちゃぽちゃ水の音をさせて洗い物をしているのである。盛りを過ぎた梅の花も、かおりは今が盛りらしい。白い手の動くにつれて梅のかおりも漂いを打つかと思われる、よそ目に見るとも胸おどりしそうなこの風情を、わが恋人のそれと目に留った時、どんな思いするかは、他人の想像しうる限りでない。

おとよはもう待つ人のくる刻限と思うので、しばしば洗濯の手を止めては枝折戸の外へ気を配る。洗濯の音は必ず外まで聞えるはずであるから、省作がそこまでくれば躊躇するわけはない。忍びよる人の足音をも聞かんと耳を澄ませば、夜はようやく更けていよいよ静かだ。