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のはぎ

野萩

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《野萩(のはぎ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,480 字 · 21 頁

青空文庫

「逢いたいね」

「母親なんて、馬鹿なもんだわね。あんな目にあわされながら、息子が恋しいだなんて」

「ええええ、どうせ、あたしは馬鹿なのよ」

安を車に残して、山下桟橋へ行ってみたが、ようすがわからない。冷たい風が、波しぶきといっしょに吹きつける桟橋を、寒肌をたてながら行ったり来たりしていたが、引揚者は収容所にいるだろうということで、そっちへまわった。

合宿所へ行くと、伊作はいたが、姿を見せず、ホテルのポーターのようなのが、代りに出てきて、磯子の萩ノ家という家で待っていてくれ、すぐ行くから、と伊作の伝言をつたえた。

もとはどういう邸だったのか、竹の櫺子をつけた、いかにも床しい数寄屋がまえなのに、掛軸はかけず、床柱の花籠に、申訳のように薊と刈萱を投げいれ、天井の杉板に金と白緑で萩が描いてある。こういうのが、このごろの趣味らしいが、それにしても、ふしぎなながめだった。

飛瀑障りというのか、池のむこうの小滝を、楓の真木が一本、斜めに切るように滝壺のほうへ枝をのべ、萩ノ家というだけあって、庭いちめんにうっとうしいほど萩を植えこんでいる。

すぐ行くといった伊作は、十一時すぎになってもやってこない、安は、のんびりと庭をながめてから、床のほうへ立って行って、青磁の安香爐を掌に受けて、勿体らしくひねくりはじめた。