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きんろう

金狼

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《金狼(きんろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 89,438 字 · 179 頁

青空文庫

検挙の手はもう葵の襟元にせまっている。一刻も躊躇していられない場合になった。葵を逃がすためには金がいるのだが、まるっきりその方策がつかないのである。

久我は焦だってきて、夕空を仰いで思わず呻き声をあげた。金を手にいれるためなら、どんな事でもしかねない気持になってきた。

久我の肩にだれか、そっと手をおいた。

反射的に衣嚢の拳銃に手をかけて、キッとそのほうへふりむいた。

日本人ばなれのした、十八九の眼の窪んだ娘が、ラグラン袖のブラウスを秋風にふくらませ、鶴のように片足で立っていた。久我の顔を見ると、小馬鹿にしたように片眼をつぶって、

「あたし、毎日あなたのあとを尾行ていたのよ。……知ってた?」

久我はきびしく眉をよせながら娘の顔を見つめた。〈シネラリヤ〉へはじめて葵をたずねて行った晩、しきりに久我にからみついた鮭色のソワレだ。それから、尼ヶ崎でいちど見たことがある。……たしか、鶴とかいった娘だ。

鶴はいかにもうれしくてたまらないという風に笑いだしながら、

「……ほらね、知らなかったんでしょう。うれしいわ。……ふむ、でも、こんなところに突っ立ってないで歩きだしましょうよ。