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きんろう
金狼
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《金狼(きんろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 89,438 字 · 179 頁
久我は入口の近くの小卓につくと、もう一度念をいれて広間のなかを見廻した。しかし、そこには葵の顔は見あたらなかった。
一人の女が立っていって蓄音機をかける。ささやくようなルムバのメロディがそこから流れだした。四五人の男が立って行って踊りはじめた。踊り場の中央には大きな磨硝子が嵌めこまれてあって、下からの照明が、フット・ライトのように、その上で踊る男と女の裾を淡く照らしあげた。
鮭色のソワレを着た十七八の若い娘が久我の傍へきて坐ると、びっくりしたような眼つきをしていつまでも久我の横顔を眺めていた。
酒棚の上の蝉鳴器が、むしろ、愛想よくジイ、ジイ……と、鳴りだす。
踊りは急に止み、男と女は急いでおのおのの小卓に駆けもどると、へんに空々しい顔をした。一人の女が蓄音機をとめる。床の照明が消されると、たちまちその上に小卓と椅子が押し出されて、そこで一組の男女がジンジャア・エールを飲みだした。このすべての動作は、めざましくも一瞬のうちに行われた。まるで、芝居の「急転換」のようであった。
はいって来たのは、四十歳位の、医者のような風態の男で、入口の傍に坐っている久我を見ると、急に顔をそむけるようにして、奥まった小卓の方へ行ってしまった。