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きんろう

金狼

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《金狼(きんろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 89,438 字 · 179 頁

青空文庫

快活な、新しい生活の寝床では、むかしの夢さえ見ないであろう。……なにより、自分はもうひとりではない。赫耀たる詩人の魂をもった、このアドニスは、自分をひいて人生の愉楽の秘所にみちびいてくれるのであろう。……葵は、そっと卓の下をまさぐった。そこに、久我の手があった。それが葵の小さな手を、そのなかに温く巻きこんだ。葵の背すじを、ぞっ、と幸福の戦慄が走った。

口論がひと句切りになったとみえて、西貝が、亀の子のように首をふりながら、葵のほうへ近づいてきた。

「……人殺しイがア、とりイもつ縁かいな、と。……愉快ですなア、奥さん」

と、いいながら、いやらしく、葵の肩にしなだれかかった。葵は、微笑しながらうなずいた。

那須が、むこうのはしから、君、葵君、といいながら立ちあがってきた。

「ねえ、葵君。……ダンサア稼業に訣別の夜だ。記念のためにタンゴを踊ろう。……(久我のほうへ顔をつきだしながら、)ね、いいだろう、久我。……妙な面アするなよ。……亭主なんか、どんな面をしたって、かまうもんか。……葵君、さ、踊ろう、踊ろう……」

葵の手をつかみ損ねて、卓の上へのめり、勢いあまって、喰べ荒した皿小鉢といっしょに、乾の膝の上へころがって行った。