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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,251 字 · 39 頁

青空文庫

「へえ、さようでございます。その時、この障子に映ってる大きな影を見ましたんで。」

「人がいねえのに、影だけ見えたのか。」

「そうなんで。」

「紋之助さんとおこよは何をしていた。」

「何とも思わねえから、気をつけて見たわけではありませんが、なんでも、操り舞台の仕度をしながら、紋之助さんが何か一生懸命に口真似で話し込んでいました。大方、高座の打ち合わせをしていたのでございましょう。」

「影は、こう、急いでうつったと言いなすったね。」

「へえ。急ぎにも何にも、障子にひらひらと写ったかと思うと、すぐ消えてしまいました。」

「どんな影か、思い出せねえか。」

「どんな影といって――、」出方の藤吉は首すじを撫で撫で、「着物を着て、袴をつけたような、ふくれ返った人間の影でしたが――。」

「ううむ。袴をはいていた、と。」

藤吉は、不遠慮に欠伸をした。

四

「なに? 袴をはいていた?」幸七が、大きな声で、出方へ、

「おめえ夢でも見たんだろう。誰も、はかまをはいた者なんか、楽屋にいやしねえじゃねえか。」

「戸外から忍び込んだに違えねえ。」

彦兵衛の前に、出方の藤吉は口を尖らせて、

「しかし、影だけで、人はたしかにいませんでしたよ。