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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,625 字 · 26 頁

青空文庫

「へっ、殺されやしたよ、八州屋が。八州屋の旦那がね、親分、器用に殺られやしたよ。」

「え、八州屋って味噌屋か。」

勘次が仰天して口を出した。が、予期していたことのように藤吉はすましていた。

「ほかにゃあねえやな。親分、この小僧の駈込みでね、こりゃあこうしちゃいられねえてんで、出先がわかってるから俺あお迎えに、へえ飛び出して来やしたよ。」

藤吉は黙って歩き出した。橋を渡って右へ切れた。茅場町である。堀へついて真一文字に牧野河内の下邸、その少し手前から鎧の渡しを右手に見て左坂本町へ折れようとする曲角に、金山寺御味噌卸問屋江戸本家八州屋という看板を掲げた店が、この重なる凶事に見舞われた当の現場であった。

雨上りの泥道をひたすら急ぐ藤吉の背から、勘次と彦兵衛の二人が注進役の小僧を中に小走りに随いて行った。

店に寝ているところをお内儀さんと折柄買出しに来た味噌松とに叩き起されて、藤吉を呼びに八丁堀の合点長屋まで裸足で駈けつけたというほか、主人はいつどうして殺されたのか、小僧には皆目解っていなかった。ただ、屍骸は裏の味噌蔵に転がっている、とだけ泣声で申し立てた。