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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 頁

青空文庫

「ねえ。親分。」

藤吉の左の頬を湿しながら、甚八は退屈そうに言葉を続ける。「連中は今ごろ騒ぎですぜ。砂を食った鰈でも捕めえると、なんのこたあねえ、鯨でも生獲ったような気なんだから適わねえ、意地の汚ねえ野郎が揃ってるんだから、どうせ浜で焼いて食おうって寸法だろうが、それで帰ってから腹が痛えとぬかしゃあ世話あねえや。親分の前だが、お宅の勘さんとあっしんとこの馬鹿野郎と来た日にゃあ、悪食の横綱ですからね。ま、なんにせえ、このお天気が儲けものでさあ。町内の繰り出しとなるときまって降りやがるのが、今年あどうしたもんか、この日和だ。こりゃたしかにどっかのてるてる坊主がきいたんだとあっしゃあ白眼んでいますのさ。十軒店の御連中は四つ前の寅の日にわあってんで出かけやしたがね、お台場へ行き着くころにゃ、土砂降りになってたってまさあ――ねえ、親方、今日はいよいよ掃部さまが御大老になるってえ噂じゃありませんか。」

「うん。」

半分眠りながら藤吉は口の中で相槌を打っていた。安政五年の四月の二十三日は、暦を束にして先に剥したような麗かな陽気だった。こう世の中が騒がしくなってきても、年中行事の遊ぶことだけは何をおいても欠かさないのが、そのころの江戸の人の心意気だった。