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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 頁

青空文庫

」

華やかな辺りの景色に調子を合わせるように、藤吉はひとり打ち興じていた。黄色い灯が大格子の縞を道路へ投げて人の出盛る宵過ぎは、宿場ながらにまた格別の風情を添えていた。吸いつけ煙草に離れともない在郷の衆、客を呼ぶ牛太の声、赤絹に火のついたような女たちのさんざめき、お引けまでに一稼ぎと自暴に三の糸を引っかいて通る新内の流し、そのなかを三人は左右大小の青楼へ気を配りながら、雁のように跡を踏んで縫って行った。

二、三度大通りを往来したが無駄だった。伝二郎も勘次も拍子抜けがしたようにぽかんとしていた。藤吉だけが自信を持続していた。足の進まない二人を急き立てるように、藤吉が裏町へ出てみようと、露地にはいりかけたその時だった。四、五人の禿新造に取り巻かれて、奥のとある楼から今しがた出て来た兜町らしい男を見ると、伝二郎は素早く逃げ出そうとした。

「どうした?」

と藤吉はその袖を掴んだ。

「あれです!」

伝二郎は土気色をしていた。

「違えねえか、よく見ろ。」

「見ました。あれです、あれです。」

と伝二郎は意気地なくも、ともすれば逃げ腰になる。火照った頬を夜風に吹かせて、男は鷹揚に歩いて来る。