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ぎんのペンセル

銀のペンセル

小川 未明

線上閱讀小川 未明《銀のペンセル(ぎんのペンセル)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 2,618 字 · 6 頁

青空文庫

三味線をひいて、旅の女が、毎日、温泉場の町を歩いていました。諸国の唄をうたってみんなをおもしろがらせていたが、いつしか、その姿が見えなくなりました。そのはずです。もう、山は、朝晩寒くなって、都が恋しくなったからです。

勇ちゃんも、もう、東京のお家へ帰る日が近づいたのでした。ここへきて、かれこれ三十日もいる間に、近傍の村の子供たちと友だちになって、いっしょに、草花の咲いた、大きな石のころがっている野原をかけまわって、きりぎりすをさがせば、また、水のきれいな谷川にいって、岩魚を釣ったりしたのであります。

「君、もう、じきに東京へ帰るのか。」と、一人の少年が勇ちゃんにききました。

その子は顔がまるくて、色の黒い快活の少年でした。勇ちゃんは、この少年が好きで、いつまでも友だちでいたかったのです。

「君のお家が東京だと、いいんだがな。」と、勇ちゃんは、いいました。

「君のお家こそ、こっちへ引っ越してくれば、いいのだ。」と、少年は答えました。

空の色が、青々として、白い雲が高く野原の上を飛んでゆきます。

あとの子供らは、いつか、どこかへいってしまったのに、その少年ばかりは、名残惜しそうに勇ちゃんのそばから、いつまでもはなれずにいました。