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どうせんかいじへん

銅銭会事変 短編

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《銅銭会事変 短編(どうせんかいじへん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 106,745 字 · 216 頁

青空文庫

「おれの何より有難いのは、生地で仕えられるということさ。越中守様の下でなら、お太鼓を叩く必要もなければ怒ってばかりいる必要もない。楽に呼吸を吐けるというものさ」

この意味はお色にはわからなかった。

「お色、久しぶりで何か弾けよ」

「ええ」といって三味線を取った。「あら厭だ糸が切れたわ」

「三の糸だろう、薄情の証拠だ」

「お気の毒さま、一の糸よ」

「それじゃあいよいよ嬶になれる」

「ゾッとするわ! 田沼の爺!」

「何さ、田沼のその位置へ、俺が坐ろうというやつよ」

「まあ」といって三味線を置いた。

「大して嬉しくもなさそうだな」

「瞞すと妾狂人になるわ!」

二人はそこで寄り添おうとした。有難い事には野暮天ではなかった。寄り添う代わりに坐り直した。と、お色がスッと立った。裏の障子を引き開けた。眼の前に隅田が流れていた。行き交う船! 夕焼け水!

「ああ私にはあの水が……」湯のようだと彼女はいおうとした。だがそういわなかった。「ああまるで火のようだわ」こう彼女はいったものである。

間もなく季節は真夏に入ろう。恋だって火のように燃えるだろう。だがその次には秋が来よう。結構ではないか実を結ぶ季節だ。