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うし
鎧櫃の血
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《鎧櫃の血(うし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,702 字 · 99 頁
さてはこの人は娘か妹か、なにかの女をさがしているに相違ないと思う途端に、ふっと悪い料簡が起りました。こんな木曾の山の中に、いつまで暮していても仕様がない。ここで何とかごまかして……。こう思ったのがわたくしの誤りでございました。奥へ連れて行かれる時に、店の柱へ二の腕をそっと強く打ちつけて、急ごしらえの痣をこしらえまして……。わたくしはまた何という大胆な女でございましょう。旦那さまの口占を引きながら、いい加減の嘘八百をならべ立てて、表に遊んでいるところを見識らない女に連れて行かれたの、それから京へ行って育てられたの、継母にいじめられたのと、まことしやかな作りごとをして、旦那さまをはじめ皆さんをいいように欺してしまって、とうとうこの家へ乗り込んだのでございます。思えば、一から十までわたくしが悪かったのでございます。どうぞ御勘弁をねがいます。」と、かれは前髪を畳にすり付けながら泣いた。
ここらでも人に知られた近江屋七兵衛、四十二歳の分別盛りの男が、いかにわが子恋しさに眼が眩んだといいながら、十七八の小女にまんまと一杯食わされたかと思うと、七兵衛も我ながら腹が立つやら、ばかばかしいやらで、しばらくは開いた口が塞がらなかった。