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に、さんば――じゅうに、さんば

鏡花短篇集

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《鏡花短篇集(に、さんば――じゅうに、さんば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,305 字 · 66 頁

青空文庫

その牡丹だの、芍薬だの、結構な花が取れますから、たんとお鳥目が頂けます。まあ、どんなに綺麗でございましょう。

そして貴方、お望の草をお採り遊ばすお心当はどの辺でござんすえ。」

と笠ながら差覗くようにして親しく聞く、時に清い目がちらりと見えた。

高坂は何となく、物語の中なる人を、幽境の仙家に導く牧童などに逢う思いがしたので、言も自から慇懃に、

「私も其処へ行くつもりです。四季の花の一時に咲く、何という処でしょうな。」

「はい、美女ヶ原と申します。」

「びじょがはら?」

「あの、美しい女と書きますって。」

女は俯向いて羞じたる色あり、物の淑しげに微笑む様子。

可懐さに振返ると、

「あれ。」と袖を斜に、袂を取って打傾き、

「あれ、まあ、御覧なさいまし。」

その草染の左の袖に、はらはらと五片三片紅を点じたのは、山鳥の抜羽か、非ず、蝶か、非ず、蜘蛛か、非ず、桜の花の零れたのである。

「どうでございましょう、この二、三ヶ月の間は、何処からともなく、こうして、ちらちらちらちら絶えず散って参ります。それでも何処に桜があるか分りません。美女ヶ原へ行きますと、十里南の能登の岬、七里北に越中立山、背後に加賀が見晴せまして、もうこの節は、霞も霧もかかりませんのに、見紛うようなそれらしい花の梢もござんせぬが、大方この花片は、煩い町方から逃げて