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ちょうへんしょうせつしけん

長篇小説私見

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《長篇小説私見(ちょうへんしょうせつしけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,065 字 · 8 頁

青空文庫

文学の中に吾々は、種々の意味で心惹かるる人物を沢山持っている。友人や知人や恋人、敵や味方、崇高な者や惨めな者、自分の半身と思わるる者や不可解な者……。ハムレットやドン・キホーテなどの典型的なものから始めて、咄嗟に頭に浮ぶものだけでも、枚挙に遑がない。文学に親しんでる者にとっては、それらの人物の数や性格の多種多様さに於て、文学は歴史以上である。而も、史上の実在の人物が、時と場所との限定によって、吾々と縁遠い存在であるのに反して、文学上の人物は、同感的に或は反感的に吾々の心情に直接に触れることによって、吾々の身辺に近い存在である。吾々にとって、実在の人物が架空的になり、架空的な人物が実在性を持ってくる、この顛倒は、歴史と文学との本質的な一面を説明するものであろう。

或る時代の或る種類の文学をとりあげて、それが尋常の意味で吾々に生々と感ぜらるる所以は、右のような人物によることが多い。日本の歌舞伎芝居への関心から吾々が容易に脱せられないのは、その中に親しい人物を数多く吾々が持ってることが、最も大きな原因ではあるまいか。演劇上の様式のことは茲では問題でない。