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かいかのおっと
開化の良人
線上閱讀芥川 竜之介《開化の良人(かいかのおっと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,438 字 · 32 頁
するとすぐ隣の桝に派手な縞の背広を着た若い男がいて、これも勝美夫人の会釈の相手をさがす心算だったのでしょう。の高い巻煙草を啣えながら、じろじろ私たちの方を窺っていたのと、ぴったり視線が出会いました。私はその浅黒い顔に何か不快な特色を見てとったので、咄嗟に眼を反らせながらまた眼鏡をとり上げて、見るともなく向うの桟敷を見ますと、三浦の細君のいる桝には、もう一人女が坐っているのです。楢山の女権論者――と云ったら、あるいは御聞き及びになった事がないものでもありますまい。当時相当な名声のあった楢山と云う代言人の細君で、盛に男女同権を主張した、とかく如何わしい風評が絶えた事のない女です。私はその楢山夫人が、黒の紋付の肩を張って、金縁の眼鏡をかけながら、まるで後見と云う形で、三浦の細君と並んでいるのを眺めると、何と云う事もなく不吉な予感に脅かされずにはいられませんでした。しかもあの女権論者は、骨立った顔に薄化粧をして、絶えず襟を気にしながら、私たちのいる方へ――と云うよりは恐らく隣の縞の背広の方へ、意味ありげな眼を使っているのです。私はこの芝居見物の一日が、舞台の上の菊五郎や左団次より、三浦の細君と縞の背広と楢山の細君とを注意するのに、より多く費されたと云ったにしても、決して過言じゃありません。