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およしのおんりょう

阿芳の怨霊

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《阿芳の怨霊(およしのおんりょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,310 字 · 5 頁

青空文庫

「直ぐ御食事になさいますか」

「さあ、たいして腹も空いていないが、とにかく持って来てもらおうか」

婢が去ると、由平はごろりと其処へ寝転んだ。由平は将来を考えているところであったが、由平の懐中には二十円ばかりの金しかなかった。しかし、何をするにしても二十円の金では不足であった。由平は考えれば考えるほど前途が暗かった。

「お待ちどおさま」

婢に声をかけられて由平は身を起した。由平の前には二つの膳が据えてあった。由平は婢が感違いをしたろうと思った。

「おい、此処は一人だよ」

「でも奥さんは」

「冗談じゃない、俺は一人だよ」

「でも、さっき、たしかにお伴れ様が」

婢は不思議そうに室の中を見廻した。由平も不思議に思って四辺を見た。由平の隣には別に座蒲団が一枚敷いてあった。婢は其の座蒲団へ手をやった。

「今まで其処にいられましたが」

「え」

由平はぎょっとしたが、そんな素振を見せてはならぬ。

「そんな事があるものか、そりゃ何かの間違いだろう」

婢は不思議そうな顔をして膳をさげて往った。由平は鬼魅がわるかったが、強いて気を強くして箸を執った。そして、椀の蓋を取ろうとしたところで、別な蒼い手がすうっと来て由平の手を押えた。