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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《雨瀟瀟・雪解 他七篇(あめしょうしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,414 字 · 289 頁
一同はそれらの小屋をも後にして俗に千本桜といわれた桜の立木の間をくぐり抜け、金竜山境内の裏手へ出るとそぞろ本山開基の昔を思わせるほどの大木が鬱々として生茂っている。その木陰に土弓場と水茶屋の小家は幾軒となく低い鱗葺の屋根を並べているのである。毎夜頬冠して吉原の河岸通をぞめいて歩くその連中と同じような身なりの男が相も変らずその辺をぶらりぶらり歩いていたが、さすがに唯今方世にも恐ろしい騒動のあった後とて女供は一斉に声を潜め姿を隠してしまったので、いつもはそれほどに耳立たない裏田圃の蛙の啼く音と梢に騒ぐ蝉の声とが今日に限って全くこの境内をば寺院らしく幽邃閑雅にさせてしまったように思われた。さながら人なき家の如く堅くも表口の障子を閉めてしまった土弓場の軒端には折々時ならぬ病葉の一片二片と閃き落ちるのが殊更に哀深く、葭簀を立掛けた水茶屋の床几には徒に磨込んだ真鍮の茶釜にばかり梢を漏る初秋の薄日のきらきらと反射するのがいい知れず物淋しく見えた。何処か見えない木立の間から頻と笑うが如き烏の声が聞える。
種彦は何という訳もなく立止って梢を振仰いだ。枯枝の折れたのが乾いた木の皮と共に木葉の間を滑って軽く地上に落ちて来る。