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ゆきのよる

雪の夜

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《雪の夜(ゆきのよる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,221 字 · 23 頁

青空文庫

そばが無いときいて、じゃ又来らあ。そんな客もあった。だんだんはやらなくなった。

照枝はつわりに苦しんで、店へ出なかった。坂田は馴れぬ手つきで、うどんの玉を湯がいたり雇の少女が出前に出た留守には、客の前へ運んで行ったりした。やがて、照枝は流産した。それが切っ掛けで腹膜になり、大学病院へ入院した。手術後ぶらぶらしているうちに、胸へ来た。医者代が嵩む一方、店は次第にさびれて行った。まるで嘘のように客が来なかった。このままでは食い込むばかりだと、それがおそろしくなりたまりかねてひそかに店を売りに出した。が、買手がつかず、そのまま半年、その気もなく毎日店をあけていた。やっと買手がついたが、恥しいほどやすい値をつけられた。

それでも、売って、その金を医者への借金払いに使い、学生専門の下宿へ移って、坂田は大道易者になった。かねがね八卦には趣味をもっていたが、まさか本業にしようとは思いも掛けて居らず、講習所で免状を貰い、はじめて町へ出る晩はさすがに印刷機械の油のにおいを想った。道行く人の顔がはっきり見えぬほど恥しかったが、それでも下宿で寝ている照枝のことを想うと、仰々しくかっと眼をひらいて、手、手相はいかがです。