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ゆきのやどり
雪の宿り
神西 清
線上閱讀神西 清《雪の宿り(ゆきのやどり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 頁
そこへ今度の大乱である。貞阿はそんな話をして、序でに一慶和尚の自若たる大往生ぶりを披露した。示寂の前夜、侍僧に紙を求めて、筆を持ち添えさせながら、「即心即仏、非心非仏、不渉一途、阿弥陀仏」と大書したと云うのである。玄浴主は、いかさま禅浄一如の至極境、と合槌を打つ。
客は湯冷めのせぬうちに、せめてもう一献の振舞いに預って、ゆるゆる寝床に手足を伸ばしたいのだが、主人の意は案外の遠いところにあるらしい。それがこの辺から段々に分って来た。尤も最初からそれに気が附かなかったのは、貞阿の方にも見落しがある。第一殆ど二年近くも彼は玄浴主に顔を見せずにいた。応仁の乱れが始まって以来の東奔西走で、古い馴染を訪ねる暇もなかったのである。自分としては戦乱にはもう厭々している。しかし主人の身になってみれば、紛々たる巷説の入りみだれる中で、つい最近まで戦火の渦中に身を曝していたこの連歌師の口から、その眼で見て来た確かな京の有様を聞きたいのは、無理もない次第に違いない。しかも戦乱の時代に連歌師の役目は繁忙を極めている。差当っては明日にも、恐らく斎藤妙椿のところへであろう、主命で美濃へ立たなければならぬと云うではないか。