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すまでらふきん

須磨寺附近

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《須磨寺附近(すまでらふきん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 頁

青空文庫

池の水には白鳥が群を作って遊んでいた、雨がその上に静かに濺いでいた。

池を廻って、高い石段を登ると寺があった。そこには義経や敦盛の名の見える高札が立ててあった、それはどこへ行ってもかならずある、松だの小沼だのに対する伝説が書かれてあるのだ、康子は清三を振返って、この高札に皮肉な瞳を動かして見せた、清三も釣られて蔑んだ笑いを洩らした。

寺の前から裏山へかけて、八十八ヶ所の地蔵堂が造られてある、二人はそのほうへ進んだ、がもはや夕闇が拡がり出して、木樹の蔭には物寂しい影が動き始めた。

「ここへ入って少し休みましょう」

朱い小さい山門の下へ来たとき、康子は傘をすぼめてその下に入った。清三もその後に従った、そして康子のために台石の埃を手帛で払ってやった、康子は微笑ながら清三の手を見ていたが、素直にその上へ腰を休めた。

「静かでしょう」

康子はちょっと耳を澄ませてから、呟くような声で云った。

「地の中で虫が土を掘る音まで聞えそうだ、と云っている人がゲエテの詩の中にありましたね。――雨さえ降っていなかったら、こんな静かさをそう云うのでしょうか」

清三は恐縮して、そうですねと云ったばかりである、康子はその静寂の中から何か聞き出すもののように、しばらく眼を閉じてじっとしていたが、まもなく帰ろうと云いだした。