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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《顎十郎捕物帳(あごじゅうろうとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,550 字 · 27 頁

青空文庫

「こりゃアどうも、さんざんだ」

「それはそうと、ひょろ松。いったい、なんでそんなにあわてくさっているんだ」

ひょろ松は、顎十郎とむかいあって中腰になり、

「いや、どうも、近来にない大事がおっぱじまってしまって……。実は、藤堂和泉守さまの御息女の加代姫さまというのが、駕籠舁、中間こきまぜて束にして六人。まるで川へ毒流しでもするように、しごくあっさりと殺ってしまったんです。……大名のお姫さまだけあってひどく思い切ったことをする。今朝からこれでえらい騒ぎになっているんです」

「なんで殺した」

「酒に番木鼈という毒を入れて飲ませたんです」

「こりゃア、おどろいた」

顎十郎は、とど助と眼を見あわせ、

「とど助さん、世の中にはいろいろなことがありますな。それが事実としたら、実にどうも、際どいことでした」

さすがの、とど助も、息をついで、

「いや、まったく。あのまま意地きたなくいすわっていたら、鯰なみにポックリ浮きあがってしまうところでした。それも、あなたのお蔭」

「お蔭なんていうことはありません。あの姫さまが毒を盛るだろうなどと、いくらあたしでもそこまでは察しない。あたしは、元来、ああいうお姫さま面が嫌いでね、それで、まア、恐れて逃げだしたようなわけだったんですが、こりゃとんだ生命びろいをしました」