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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《顎十郎捕物帳(あごじゅうろうとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,674 字 · 36 頁

青空文庫

眼鼻立ちの大がまえな一文字眉。底のすわった立派な顔貌だが、いわゆる長々の浪々。貧苦がガックリと頬を落しこみ、鬢の毛はほうけ立って、不精たらしく耳の上へおおいかぶさっている。

女手がないのか、ぶざまに継をあてたつぎだらけの古帷子。経糸の切れた古博多の帯を繩のようにしめ、鞘だけは丹後塗だが中身はたぶん竹光……腰の軽さも思いやられる。

顔色は土気色に沈んでいるのに、眼だけは火がついたようにギラギラと光り、瀬戸の古丼を突きだしながらうわずったような声で、

「あの……どうか、お氷……」

番衆も業を煮やし、つい、剣つき声になって、

「こいつ、また来た……わからねえにもほどがある、順にやると言ってるんだ……列につきなさい、列に」

浪人ていの男は、あふッと喘いで、

「申訳けもござらぬ……勝手を申すようですが、じつは……」

「じつはも、提灯もありゃしねえ、騒いでいるのは、あなたひとりだ……みな、あの通り静かにしているじゃないか」

「……じつは、たったひとりの伜が、このほどからの時疫で、昼夜をわかたぬ大熱。……ひと心地もないうちにも、毎年、お氷を頂戴したことをおぼえていると見えまして、四五日前から口をおかずに、お氷、お雪と囈言を申します。