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ましょうのおんな

魔性の女

大倉 燁子

線上閱讀大倉 燁子《魔性の女(ましょうのおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,898 字 · 20 頁

青空文庫

一

一

会社を退出した時には桃子にも連れがあったので、本庄とは別々の電車に乗ったが、S駅を降りると、彼はもう先に着いて待っていた。

二人は腕を組んで夕闇の迫った街を二三町も歩くと、焼け残った屋敷街の大きな一つの門の前に立ち止った。

桃子は眼を丸るくして、門冠りの松の枝を見上げ、

「あんた、このおやしき?」

「うん。素晴らしいだろう? 会社への往きかえりに毎日前を通っていてね、いい家だなあと想っていたんだ。今朝、出がけに寄って、部屋を見せてもらった。離室の茶席、とても素的だぜ。没落した華族さんの内職にやっている御旅館兼お休息所さ。ここなら会社の人なんかに絶対知れっこないからね」

「だって、私――」

桃子は尻り込みして、

「あなたのお宅といくらも離れていないんでしょう? そんなお膝もとで――、会社の人よりも奥様に感付かれたらどうするのよ」

「燈台もと暗しさ。遠征すると反ってばれる。これなら、奥様だって、仏様だって御存じあるまいさ」

構えが堂々としているので桃子は気おくれして、入りそびれていると、客の気配を聞きつけて、奥から出て来た素人臭い女中に案内され、多摩川砂利を踏んで、右手の朱雀門から庭の茶席へ通された。