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さかなのじょぶん
魚の序文
林 芙美子
線上閱讀林 芙美子《魚の序文(さかなのじょぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,384 字 · 21 頁
僕は心の中ではこの詩に感服していながら、ちょっとここのところがこざかしいと云えば云える腹立たしさで、彼女をジロリと睨んだ。
「ううん、墓の中の提灯を見ていたら、ふとこんな気持ちになったンですよ。……別に本当の事なンか出やしないわ。だって、こんなの、まるで河のほとりに立って何か唄っているようなの……ねえ、その気持ち判るでしょう」
「判らないねえ、僕はうたよみじゃないから……」
「そう、そうなの……」
本当を云えば、初め、僕は彼女を愛しているのでも何でもなかったのだ。彼女だって、僕と一緒になるなんぞ夢にも思わなかったろうし、結婚の夜の彼女が、「済まないわ……」と一言漏した言葉があった。どんな意味で云ったのか、僕だけの解釈では、僕以外の誰かに、済まなさを感じていたのであろう。――僕は彼女を知る前に、一人の少女を愛していた。骨格が鋭く、眼は三白眼に近い。名は百合子と云った。歩く時は、いつも男の肩に寄り添っていなければ気が済まないらしく、それがこの少女の魅力でもあった。
「とうとうお菊さんと結婚なすったンですってね。三吉さんもなかなか隅におけない」
黄昏の街の途上で会った時、百合子はチラと責めるように僕を視てこう云ったが、歩きながら、例のように百合子は肩をさし寄せて、香料の匂いを運んで来る。