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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

線上閱讀小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 頁

青空文庫

あの汽車の音には、やはりお困りでしたろう。その家には前後二回伺っただけでした。

東照宮下から動物園の裏門の方へ曲って、花園町というのに今度のお家があります。山を右にして左側がお邸です。もと上野山へ納める花を造っていたとのことですが、日当りはあまり好くないようですから、大した花は出来なかったでしょう。生垣の間の敷石を踏んで這入るのでした。右へ曲って突当りがお玄関で、千本格子の中は広い三和土です。かなり間数があったようで、中廊下の果の二間がお部屋、そこから上った二階がお書斎でした。八畳位でしたろうか、折廻しの縁へ出て欄干に寄ると、目の下の中庭を越して、不忍池の片端が見えます。眺めがよいというのではありませんが、あの頻繁に目の前を汽車が往復した家とは比較になりません。ただ夜更には動物園の猛獣の唸声がすると、女中たちはこわがりました。

お部屋へは、よくお客が見えます。それが皆長座なさるのです。そこで始めて落合直文氏や市村次郎氏などにお目にかかりました。裏の窓から少し離れた二階家に、たしか大沼枕山という方が患っていられました。体が御不自由の御様子で、附添の人の動作がよく見えます。